秋になると、街のあちこちで「オクトーバーフェスト」という名前を見かけるようになる。
大きなジョッキに入ったビール、ソーセージやプレッツェル、陽気な音楽、そして「Prost!(乾杯!)」の掛け声。
日本でもすっかりおなじみになったこのイベントだが、そもそもオクトーバーフェストとは何なのだろう。
オクトーバーフェストは、ドイツ・ミュンヘンで200年以上続いている世界最大級のビールの祭典だ。
意外にも、その始まりは「ビールを飲むためのお祭り」ではなかった。
1810年、バイエルン王国の王太子ルートヴィヒとテレーゼ王女の結婚を祝うため、市民を招いた大きな祝祭が開かれた。
その祭りの最後に行われたのが、広大な草原での競馬。
この祝祭が翌年以降も繰り返されるようになり、現在のオクトーバーフェストへとつながっていったのだという。
その始まりにあったのは「結婚を祝うこと」と「人々が集まり、喜びを分かち合うこと」だった。
魔術には、願いや祈りをただ心の中で思い続けるだけではなく、言葉や行動によって「すでにそうなったもの」として扱う考え方がある。
たとえば、豊かになりたいと願うなら、豊かさを感じる。
愛されたいと願うなら、愛に満たされた自分を思い描く。
幸せになりたいと願うなら、未来の幸せを先に喜ぶ。
・・・・これは、一般的なポジティブ思考とは少しだけ異なる。
「まだ手に入っていないもの」ではなく、「これから訪れるものを祝う」という発想だ。
そう考えると、乾杯という行為も少し不思議に見えてくる。
グラスを掲げる、誰かと目を合わせる。
「おめでとう」「乾杯」と声に出す。そして、その場にいる人たちと喜びを共有する。
一人で願うのではなく、喜びを外側へ放つ。
魔術的に考えるなら、それは小さな「祝福の儀式」と見ることもできる。
実際、オクトーバーフェストの起源にも、結婚という人生の節目を祝うために人々が集まり、その喜びを共有するという要素があった。
さらに、祭りというものには「豊かさ」を祝う側面もある。
秋は、作物が実り、収穫を迎える季節。一年間育ててきたものが形となり、それを皆で分かち合う。
食べる。飲む。笑う。歌う。そして、乾杯する。
そうした行為は、古い時代の収穫祭にも通じる「豊かさを喜ぶ」という人間の本能的な行動なのかもしれない。
だから今年の秋は、ひとつ試してみてもいい。
何か願いがあるのなら、それが叶った未来を想像して、その未来に向かって乾杯してみるのだ。
「臨時収入が入った!」「理想の人と出会えた!」「ずっと欲しかったものが手に入った!」
そんなふうに、まだ現実には起きていないことを、少しだけ先取りして喜んでみる。
もちろん、乾杯しただけで願いが必ず叶うわけではない。
けれど、自分が望む未来を具体的に思い描き、その未来を「嬉しいもの」として心に刻むことには大いなる意味がある。
魔術とは、何か不思議な力にすべてを任せることではない。
自分がどこへ向かいたいのかを意識し、その方向へ自分自身を動かしていくための「きっかけ」にもなり得る。
願いを叶えてから祝うのではない。叶う未来を思い描き、その未来を祝う。
そうして自分の中に「私は、この未来が欲しい」という揺るぎない感覚を確立してゆく。
秋の夜、グラスを掲げる。
「いつか」ではなく、「これから」に向かって。
オクトーバーフェストの陽気な乾杯には、そんな人間らしい「祝福の魔術」が隠されているのかもしれない。
今年の秋は、あなたもひとつ、自分自身の願いに乾杯してみてはいかがだろう。
まだ見えていない未来へ。これから訪れる豊かさへ。
そして、いつか「この願いは叶った」と笑える自分自身へ。
